モロッコ、甘いミントティーと第三夫人。

 

母と妹と、モロッコに旅行に行った時の話。

 

私の母は、私が留学中、初めての海外旅行で私を訪ねイギリスまで来てくれた。

・・・それがきっかけとなり、母は大の海外旅行ファンとなる。

 

今までたくさんの土地を訪れたが、モロッコは母にとって、ずっと憧れの土地だったそうだ。

 

マラケシュやワルザザート、フェズにシャウエンと、行きたい場所が多すぎたのと、妹も一緒に行きたい、と言ったことから、妹の夏休みに合わせて出かけることにした。

 

1か月半に及ぶ親子のバックパック旅。

母の年齢もあったし、スーツケースでの旅も考えたが、あえてバックパックを選んだ。

・・・もちろん滞在先は考慮したけれど。

母は当時、50歳だった。

母と娘の旅行はよくあっても、さすがに50歳のバックパッカーは目立つ。

それだけで、海外ではアイスブレークになると思ったから。

狙い通り、どこの国でもその土地の人々に「お母さん若いね~」と言われた。

 

海外旅行に行くといつも感じる。

世界は思ったよりも近く、同じようなことを感じる人たちで溢れている。

 

モロッコでの旅では、たくさんのドラマがあった。

今日はその中でも強烈だった、第三夫人の話をしようと思う。

 

第三夫人

マラケシュに到着した私たちは、まず、滞在先のリヤドに向かった。

ありがたいことになんのトラブルに巻き込まれることも無く、目的地に到着。

 

・・・唯一つ、問題があった。

夕食をとろうと思っていたレストランが、定休日だったのだ。

 

ちゃんと調べたはずだったんだけどな。

これだから旅行雑誌は・・・

 

なんてことを一瞬思ったが、そんなことを考えていても仕方がない。

リヤドのオーナーに、近くにレストランが無いかを聞いてみた。

 

オーナーである彼は、抜群の笑顔の持ち主だった。

この人に勧められた場所は、どこでも素敵な場所に違いない、と錯覚してしまうほど。

 

・・・何はともあれ、徒歩5分の所にレストランがあり、そこで夕飯が食べれるらしい。

お腹がペコペコだった私たちは、早速、大きな荷物を部屋に置いて、レストランに向かうことにした。

 

そのレストランまでは、リヤドの従業員の方がわざわざ案内してくれた。

お客様に何かあったら困るから、という配慮らしい。

ただ一緒に歩いているだけなのに、ジェラバ姿のモロッコ人に案内をされるだけで、なんかお姫様になったような気分になってしまうから不思議だ。

 

レストランに到着。

ドアを開けると、そこはまるで、宮殿のようだった。

 

・・・今日は週末。

どうやら週末は、アラカルトでの食事ではなく、コース料理式になるらしい。

 

 

レストランは既に、ヨーロッパからの観光客で溢れかえっていた。

ドレスアップをしている人も多く、今空港から到着したばかりですと言わんばかりの、あまりにもカジュアルな服装で店内に入った私たちは、明らかに浮いている。

 

レストラン内のステージでは、既に民族衣装を着た人達が生演奏をしていて、地元で有名な「黒服の手品師」が登場した時は会場全体が大きく湧いた。

 

・・・まぁ、彼にはこの日、白いハトの手品中にミスをしてしまい、そのハトにつつかれ退場してしまうという、まるで漫画のような展開が待っていたのだが・・・

 

それでも、酔いのまわったヨーロッパの観光客と、盛り上げるのが上手な現地のホスト達のお陰で、レストランはとても賑やかな雰囲気に包まれていた。

 

私たちは、初めて見る美しいモロカン料理に感動し、運ばれてくる料理一つ一つを丁寧に観察しながら、これはなんだ、これが美味しい、などと話ていた。

我ながら、THE 日本人観光客だと思う。

 

・・・すると、突然会場が暗くなった。

 

何が始めるのかと思っていたら、立派な民族衣装を着た男性とその家来のような人達が、列をなして会場に入ってくるではないか。

 

おー、高そうな服。

あれはジェラバなのだろうか・・・?

 

そんなことを考えながら眺めている間にも、彼らはレストラン内を堂々と、音楽に合わせながら行進していく。

店内をぐるりと一周した一行は、店内のステージに到着して止まったかと思うと、途端に家来のような男性陣が俊敏に動き出した。

 

・・・そのうちの一人が、なんと私の方に向かって歩いてきている・・・気がする。

 

いや、気のせいでは、ない。

 

手を差し出された私。

 

「・・・・・・!?!?」

 

 

戸惑い、母の方を見ると「行ってきなさい!」と、信じられないことに私の背中を男性に向かって押した。

 

・・・なんて母親だ。

 

母親に差し出された私は、家来に連れられ、レストランの中央を横切る。

どうやら私以外にも、手を引かれている女性が何人かいるようだ。

 

困惑した表情で、私は手の引かれるまま、レストランの二階に着れてこられた。

そこで男性に言われたこと。

 

「あなたを第三夫人として指名します。」

 

「・・・は?」

 

・・・ちょっと待て。

私は既婚者である。

 

もちろん、これがパーティーの中の一つのゲーム?であることは分かっていたし、会場にいる人達からきちんと見える場所でこのような会話がされたので、恐怖は無かった。

 

ただ、この時の感情を一言で言うと・・・

 

困惑。

 

・・・これだろう。

 

 

周りを見まわすと、私と全く同じような表情をしている、とても気品がある年配の白人女性と、さっき現地人とダンスをしていた踊りの上手な黒人女性がいた。

その中で私は、最年少のようだった。

 

何が起こっているのか分からない中、我々は次々と、黒子役の女性たちから色々な装飾物を付けられていく。

 

Tシャツとジーンズだった服装が、一気にきらびやかな民族衣装になり、頭にはちょっと動くと落ちてしまいそうな大きな「何か」が載せられた。

そして、有無を言わさず、手際よく、私たちは「おみこし」のようなものに順番に乗せられ、レストラン会場へと戻される。

 

・・・驚いたのはその後だ。

 

ヨーロッパの観光客で埋め尽くされたと思っていたレストラン会場には、実は現地人もたくさん混ざっていた。

私たちを乗せたおみこしが戻ってきたかと思うと、ものすごい人数の男性たちが、ものすごい勢いで近づいてくるではないか。

 

・・・怖い。

おみこしの役割を理解したと同時に、乗っててよかった。と感じた。

 

彼らに囲まれた私たち3人の周りは、大騒ぎ状態だった。

なんか、みんなで歌を歌っている。

 

母と妹は、席で食事を楽しみながら、私の様子を撮影している。

 

・・・不公平だ。

 

祭り上げられながら、作り笑いしか出来ない私たち。

私たちの意思に関係なく、どんどん会場をすすんでいくおみこしの中には、現地の男性陣から投げられるチップで溢れてきた。

 

・・・なんだこれは。

 

どうやらこれは、この地域の、正妻・第二夫人・第三夫人を受け入れる時の、伝統行事だったらしい。

 

モロッコは一夫多妻制が認められている国。

そのお祭り体験ゲームという趣旨だそうだ。

 

・・・ぜひともそれは、先に言ってほしかった。

 

あまりにも展開が早すぎて、何が行われているか整理がつかないまま「ご協力ありがとうございました^^」と、大量のチップとともに、席に戻された私は、放心状態だった。

 

「お疲れ様」と言わんばかりにウェイターの方が出してくれた水が、なんだか別の惑星から持ってきたような飲み物かと感じる程度に。

 

段々と落ち着いてくるのに、10分くらいかかったと思う。

撮影した動画を見返しながら、横で爆笑している母と妹を睨みつけながら、私は今、手元にあるこの大量のチップを、この食事代に使えるのかどうか、そんなことを考えていた。

 

 

ミントティー

・・・夕飯を食べるだけだったはずなのにな。

大変満足そうな母と妹の横で、何を食べたのか全く記憶にないうえに、やけに疲れた体にムチ打ち、私たちはリヤドに戻った。

 

ドアを開けると、オーナーが帰りを待ってくれている。

彼は本当にいつでもニコニコしていて、安心する。

 

「楽しかった?」

「・・・うん、まぁ。(途中まではとっても・・・)」

 

「夫人になったのはどっち?(私か妹か)」

「・・・・・・知ってたのね」

 

・・・スパイは普段、良い人の仮面をかぶっているらしい。

実はこのオーナーが黒幕で、私たちがレストランに行くことを、事前に知らせていたようだ。

 

彼は帰ってきた私たちのために、リヤドの中央に位置するロビーでミントティーを淹れてくれた。

モロッコと言えばミントティーを思い浮かべる人が多いだろう。

 

 

見るからに疲れ切っていて、見るからにノリの悪い私。

 

すると彼は、少し気を遣ったのか

「・・・第三夫人には、とっておきのグラスを」と特別なグラスを出してくれた。

 

こんな状況でもネタにし続けるのだから、彼らのメンタルは最強なのかもしれない。

・・・もう、ツッコむ気力もない。

 

彼が出してきてくれた、その、ピンクともオレンジとも言える、小さくて繊細で、美しいグラスにミントティーが注がれるのを、私は黙って眺めていた。

 

どうでも良いことだが、ジェラバ姿でお茶を淹れている姿は、とても絵になる。

カメラを持ってたら、安易に撮影してしまいそうなほどに。

 

オーナーが淹れてくれたミントティーは、とても甘かった。

いつもなら途中で飲むのを辞めてしまっただろう。

だけどこの時はなんだか身に染みて、数分足らずで飲み干してしまったのだから、疲れた時に甘いものが欲しくなるというのは本当だ。

 

甘いミントティーを堪能し、少しばかりの談笑を楽しんだ私たちは、明日の観光に備え、寝ることにした。

 

部屋に戻るために席を立った私たちに、彼は「良い夢を」と穏やかな笑顔で言うと、部屋まで見送ってくれた。

 

・・・あぁ、今日の出来事と疲労は、彼のこの一言のために存在したのかもしれない。

そんな気になるほど、ホストの笑顔は、やっぱりとても、やさしかった。

 

あれほどまでに騒がしかったレストランとは対照的に、怖いくらい静かなリヤド。

この温度差もモロッコ旅の醍醐味なのかもしれない、と。

私はそう、言い聞かせることにした。

 

 

 

あとがき

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

モロッコの旅は、今までアジアとヨーロッパを中心に旅してきた私にとって、たくさんの発見があった場所です。

 

温かい人々、遠いようで近い価値観、丁寧に作られた伝統品、信仰やしきたり、ルール。

 

ブラジルに住んでいてもなお、モロッコほどに「異国」と感じた国はありません。

とても驚きの多い、素敵な旅でした。

 

これから少しずつ、モロッコの旅の記憶を文字にしていこうと思います。

・・・それにしても、第三夫人のくだりは、冗談と分かっていてもちょっと怖かったな。(笑)

 

 

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