ニュージーランド、「ここから5分」の滑走路。

これは、ニュージーランド「テカポ湖」を訪れた時の話。

 

「テカポ湖」は世界一星空が美しいと言われており、その湖の色が特徴的な「ミルキーブルー」であることから、世界中の観光客に愛されている場所だ。

一年中天候の良い場所としても知られており、ここで挙式を挙げる人も多い。

いずれにしろ、日本で購入できるニュージーランドの旅行雑誌には、必ずと言っていいほどその名前が載っている場所だろう。

 

大自然を見るのが趣味の母が「死ぬ前に行きたい場所」と切望していたことから、じゃあ行こうかということで決まった旅。

 

テカポ湖へのアクセスは当時、かなり複雑でバスを乗り継いでいかなくてはいけなかった。

人の気配が無く、だだっ広い道路を時速100kmで走るニュージーランドのバス移動は、少し怖い。

 

しかしながら、いざテカポ湖周辺に近づいてくると、満開状態のルピナスに快晴の空、そして文字通り「ミルキーブルー」の湖に続くであろう細い川?が見えてきた。

驚くほど、本当に「ミルキーブルー」。

コントラストが強い絵画のような景色は、あまりに美しく恐怖も時間もすっかり忘れるほどだった。

 

一番はしゃいでいたのは母で、どこからどう見ても同じような景色を、車窓から何枚もカメラに収めている。(全部ブレていたけど)

 

私たちは、当日「セスナ観光」を予約していた。

バスは定刻で市内に到着したので、時間が押しているわけでもないけど、離陸までものすごく余裕があるわけでもない。

 

さて。

先にホテルにチェックインするべきか、とりあえずセスナの空港に行くべきか・・・

とりあえず地図を手に入れたかった私たちは、最初に観光案内所に足を運ぶ。

 

するとそこに、ちょうどセスナ観光の担当の女性がいて、「セスナの空港まではここから5分ですよ」と教えてくれた。

 

「ここから5分で着くなら、ホテルへのチェックインは後にして、先に空港に行っちゃう?」

 

なぜこういう判断になったのかよく覚えていないのだが、思っていたよりも空港が近かったことから、私たちはホテルにチェックインをする前に、セスナの空港にそのまま向かうことにした。

 

観光案内所の女性が教えてくれた方角に歩き始める。

 

5分

10分

15分

 

全くもって、セスナどころか、ランウェイや空港らしきものは見えない。

 

「あの人(女性)、ここから5分って言ったよね・・・?」

「うん、言ったよね。絶対言ったよ、聞き間違いじゃない。」

 

歩けど歩けど、目的地が見えないので、あんな簡単な英語を聞き間違えたのかもしれないと不安になった私たち姉妹だったが、やはり、どう考え直しても「ここから5分」と聞いたのだ。

 

母の歩くペースが遅くなっていく。

晴天に恵まれたため、気温の高さが体力を奪う。

 

妹は母のペースに合わせて歩くことにし、私はこの方向で合っているのか、目的地に本当にたどり着くのか、先を行くことに決めた。

 

母の荷物を持ち、ガシガシと歩き始める。

すると、遠くに「空港」の位置を指す看板が見えた。

 

「ここから3km先」

 

・・・なるほど。

私たちが歩いてきた方向は、確かに正しかった。

 

間違いだったのは、案内所にいた女性が言った「ここから5分」が、「徒歩」ではなく「車で」5分だったということ。

 

それに気が付いた私は、さすがにこの炎天下の中、母をあと3km歩かせるわけには・・・と思い、大きなリュック2人分を背負って、走ることにした。

 

気持ちよい午後の昼下がり。

ニュージーランドのルピナスと青空という「フォトジェニックな景色」の中を、どこからどう見ても観光客の若いアジア人女性が、一人、無駄に大きな荷物を背負って全力で走っている。

一体、なんの罰ゲームなのだろう。

 

 

・・・幸い、一本道だったことから、迷わずに空港に到着。

滑走路が見えた時は、思わず泣きそうになったものだ。

 

傍にあった小さな事務所に入ると、すぐに案内係の方と目が合った。

 

「もしかして、あなたが14時から予約してたイリウダさん?」

 

「・・・そうです(遅れてすみません)。」

 

・・・時計は既に、15時半を回っていた。

 

長い事待ってましたよとばかりに立ち上がった女性は、私があまりにも明らかに「走って来た風貌」だったためか、顔色を変えて聞いてきた。

 

もしかして、まさかとは思うけど、歩いてきたの・・・?

 

・・・ええ。まあ。(走ってきました)

 

彼女の血の気が引いていく。

 

よ、予約されてる、二人のお連れ様は・・・?

 

まだかなり後ろを歩いてます。笑

迎えに行ってもらうことはできますか・・・?

 

!!!!!!!!!!!!!!!!?????????????

 

・・・ここでこの女性は、両手で口を押さえ、目を見開いて言葉を失った。

なんて外国人らしいリアクションなのだろう。

 

もももももももももももちろん・・・!!!

ごごごごごごめんなさい!!

な、なんで、ここ、こんなことが起きたのかしら???

 

案内係の女性は、何もそこまで・・・というほどに、動揺していた。

 

訓練を受けているからなのかは分からないが、私は以前から、感情が高ぶっていたり慌てている人を見ると、それに相反するようにサーっと冷めていく節がある。

この性質を度々「自分はサイコパスなんじゃないか?」とわりと真面目に感じるのだが、この時も、目の前で慌てている案内係の女性を見て、どんどん冷静になっていった。

 

あぁ、人間ってどんな言語喋ってても、焦ると噛んじゃうんだな~。

 

・・・などという非常にどうでも良いことを考えながら、ようやく到着した小さくてアットホームな空港の椅子で、一息ついてた。

 

パニック状態の案内係さんは、いろんな場所に連絡してくれているようだ。

 

・・・大丈夫。

クレームなんて言わないので安心してください。

あなたの責任ではない。

ただでさえ価値観が違って当然の国に来ているのに、「ここから5分」というフレーズをちゃんと確認しなかったのは私たちだから。

 

あまりにも慌てて喋っている彼女を眺めながらそんなことを思っていたら、奥の部屋からパイロット陣が出てきた。

恐らくこの女性から最初に連絡を受けたのが彼らなのだろう。

機長と副操縦士は、二人とも驚いたような表情をしている。

 

そして最初にキャプテンに言われた一言。

 

DID YOU WALK???

 

そうなりますよね。

 

・・・Nice walk though.

 

特に何も言い返す言葉が無かったので、とりあえず開き直ることにした。

 

HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA

 

大爆笑している機長の隣で、笑いながらも若干心配そうな表情をしていた副操縦士が、突然、外に停車していた車に乗り始める。

 

あなたが運転するのはそっちではないのでは・・・?

 

・・・などと、極めて正論っぽいことを考えていたら、どうやら彼は、後ろを歩く私の母と妹を車で迎えに行ってくれるらしい。

 

申し訳ない。(笑)

 

ニュージーランドの「ここから5分」とは、「車で」である。

しかも多くの場合、100km 道路の。

 

シフトで動いているパイロットの彼らにとって、我々の「遅れ」は大幅なスケジュール変更を引き起こした。(多分)爆

 

本来だったら、予約の取り直しと言ったところだろう。

 

・・・ただ、今回のケースに関しては、どうやら案内係の女性が色々と手回ししてくれたようだ。

このまま離陸できることになった。

パイロットの二人も、時間外労働だったというのに快く離陸の準備を進めてくれた。

 

 

ようやくありつけた「セスナ」から観る景色は圧巻だった。

飛行機が苦手な妹は機体が揺れるたびに怖がっていたようだが、私は終始、窓からの景色にくぎ付けになっていた。

ただでさえ写真では伝わりづらいのに、写真撮るの下手で申し訳ない⇩

妹と母(後ろ姿)上

全く加工しない状態で、こういう景色が見える。

 

 

普段、日頃から仕事で飛行機に乗っていても、こんなに窓の外をじっくりと見れたことはない。

やっぱり空を飛ぶことには夢があるな、と思った。

 

・・・この日のフライトは、頑張ったご褒美にということで通常よりも長く飛んでくれたらしい。(笑)

 

そして着陸後、事務所に帰るとそこには観光案内所で「ここから5分よ」と教えてくれた女性が私たちのことを待っていてくれた。

十分に説明しなくてごめんなさいと、本当に申し訳なさそうにしていて、逆にこちらが恐縮してしまうほど。

どうやら観光案内所からは、セスナに乗る観光客のためにきちんと「送迎バス」が出ているらしい。

私たちが案内所に行った時、たまたまタイミング的に人が多く、送迎バスの説明をされる前に我々が勝手に動き出してしまったようだ。

 

・・・何はともあれ、無事に観光が楽しめて良かったです、と和んでいると、部屋から機長達が出てきて仕事の合間に飲んでいるというコーヒーをごちそうしてくれた。

なんなら菓子折りまで出てくる。

というか、どんどん色んな人が部屋から出てきて、謎のブレイクタイムになり始めた。

なんてアットホームな社風なのだろう。

ちょっと疲れたけど、こんなネタになる経験が出来たのは嬉しい。(笑)

 

彼らとの会話の中で、私が日本で客室乗務員をしていると話すと、今度は一気に質問攻めにされた。

スケジュールはどうとか、働きやすさ、お給料はどうか、など。

 

海外旅行で私が一番好きなのは、こういう会話だ。

自分達は国籍が違うだけの「同じ人間」なんだと一番よく感じるから。

 

そしてその流れで、次便に控えているフライトの保安要員として、もう一回乗ってくれとまで依頼された。

 

いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。

この機種の脱出訓練は受けてないです、キャプテン。

 

・・・まぁ、乗るけど。

 

結局、私は想定外の長距離走を乗り切った対価として、二度のフライトを体験することが出来た。

 

 

あの日、この事務所に置かれた観光客用にメッセージブックに私はメッセージを書いた。

「快晴だったし暑かったし徒歩でここまで来るの疲れたけどそれ以上に大大大大満足でした」と。

日本人の誰かが、もしかしたらそのコメントを見たかもしれない。(多分見ていると思う)

・・・そう考えると、「空を飛ぶこと」も「文章に書いて残すこと」も、同じくらい夢があるような事な気がする。

 

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